見えるものと見えないもののあいだ
ネットで原美術館をチェックしていたら、米田知子展「終わりは始まり」が開催されているとあった。
彼女はロンドンを拠点に活動している写真家で、近年めざましい活躍をしているという。
不勉強な私は、彼女の名前をこの写真展で初めて知った。
「終わりは始まり」とは、なんと素敵な響きだろう。
http://www.haramuseum.or.jp/generalTop.html
焼け焦げた壁紙
夜明けの山並みに浮かぶ煙に包まれた工場
部屋におかれたソファ
一見するとさりげない風景や、生活のワンシーンを切り取った情景のような写真が並ぶ。
私はこういう写真が好きだ。
ひとつひとつの作品を、丁寧に見て行こう。
パンフレットに目を落とし、タイトルを見た瞬間、頭を殴られたような気がした。
違う、これはただの情景写真などではない。
その理由は、彼女が付けたタイトルにあった。
焼け焦げた壁紙の下には、暖房の風向がある「Heat」
あの寒い日々、その風は部屋を暖め、人に温もりを与えたのだろう。その積み重ねとして、風は壁紙をも焦がしたのだ。
山並みに編み込みまれた、これこそ関東軍が爆弾を仕掛けた南満州鉄道の「線路」
満州事変勃発の場となった瀋陽、その地を臨む。
この部屋で最後の瞬間を生きた二人と。
「アドルフとエヴァのソファ」
最も強く彼女の感性に魅きつけられた作品、それが今日の日記の題名にした作品集「見えるものと見えないもののあいだ」
これは眼鏡をかけていた実在の人物たちが、彼らにまつわる書面や楽譜がぼやけている中、眼鏡のレンズの先だけはくっきり見えるというもの。
「マーラーの眼鏡」
交響曲第10番(未完成)の歌詞が五線紙に書かれている。
レンズの先には「Leb'Wohl(永遠にさようなら)」文字がくっきりと読み取れる。
「マハトマ・ガンジーの眼鏡」
『沈黙の日』の最後のノートを見る。
「トロツキーの眼鏡」
未遂に終わった暗殺計画の際に燃やされた辞書を見る
「谷崎潤一郎の眼鏡」
松子夫人への手紙を見る。
現代に於いて、歴史的な出来事を画像で伝えるとするならば、できる限り即座に現場の悲惨さを伝える報道写真が思い浮かぶ。
彼女の手法は、それとはまったく異なる。
あまりにも日常的な情景がそのタイトルと結び付いた時、それは一瞬にして人間の犯した行為を鋭く抉り取り、見る者にその事実を激しく伝える。
これは、しっかりとした主張を持った事実の裏付けをアートとした写真なのだ。
米田知子との出会いは、ドキュメントの新たな在り方を知った瞬間だった。
「見えないものを見る」視線といえるものこそ、彼女の特徴であるという。
そして彼女自身は「記憶と時間」をテーマにしているという。
米田知子を検索して行くうち、薄い緑のカーテンの揺れる窓が広がるホールの写真に出会った。
「教室」
遺体仮安置所をへて、震災資料室として使われていた/芦屋
「震災から10年」をテーマに芦屋市内を撮影した「シーン」のシリーズがあると知った。
この作品は、現在開催されている横浜トリエンナーレの2005年に展示されたという。
トリエンナーレ、今年は絶対に行こうと思っていた。
2005年。
行けていない。
こんなに悔やむことがある。
だから、ライヴも展示も、怠けず、今をチェックしていなければいけないということなんだ。
http://www.shugoarts.com/jp/yoneda.html
http://em.m-out.com/ec/html/category/001/002/172/category172_0.html
http://artshore.exblog.jp/2113492
http://www.yaf.or.jp/yma/exhibition/2007/collection/1/exhibition3.html
http://www.eu-japanfest.org/program/13/japan/in_between09.html
http://www.fujitv.co.jp/events/art-net/go/680.html
ケンウッド トワイライトライヴ
スクエア・丸の内で不定期に月2、3回開催される平日の夕方19:00〜20:00のライブイベントです。
『ソロピアノwithアート。shezooライブ』
日時: 11月7日(金) 19:00〜20:00(開場18:45)
出演: shezoo(ピアノ)
内容: 映画音楽、CM、舞台などの音楽の制作を手がけ、卓越したピアノ演奏家として活躍するshezoo(シズ)のソロライブです。CDアルバム「ネイチャー・サークル」でコラボレートした霧島留美子の絵画を大画面に映しながらの演奏。深まる秋に相応しい音楽とアートをお楽しみ下さい。
予約: TEL:03-3213-8775 (ケンウッド スクエア・丸の内まで)
http://www.kenwood.co.jp/j/square/event/twilight.html
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コメント
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深い気付きです。
感謝
投稿: たっきぃ | 2008年11月 4日 (火) 06時49分
マーラーの眼鏡に非常に興味があります。
大のマーラー好きなもので。。。
投稿: ぐいりぃ | 2008年11月 4日 (火) 21時19分
自分にとっての見えるものは何?
見えていないものは・・・???
そうして、気がついていなくとも、見えていなくては
いけないものは????と、思わせられずにはいられないものでした。。。。
今後、見えているもの、そして、こんな風に、周りから見えているんだろう、、、、でも、本当は???
何が真実???と、思わせられる
作品群、、、どう、感じるのか????という、
自分、、、、
帰りがけに、自分が感じていることと、
自分の日常とのギャップ、、、、
考えさせられました。
shezooさん、ありがとうございました。
投稿: ポン | 2008年11月 9日 (日) 19時32分
たっきぃさん
「終わりは始まり」
無限、それは輪廻への感覚。
「見えるものと見えないもののあいだ」
生きて行く上に置いて大切にしなければいけないものの存在。
確かに。
真実への気付きでした。
投稿: shezoo | 2008年11月14日 (金) 00時48分
ぐいりぃさん
マーラーの眼鏡といえば、彼のポートレートでも印象的な分、興味深いですよね。
ぐいりぃさんの眼鏡の先には、何が見えているのでしょうか?
投稿: shezoo | 2008年11月14日 (金) 00時54分
ポンさん
「見えるものと見えないもののあいだ」
このフレーズから、自分にとって見えるものと見えていないもの、そして自分がどう見られているのかということ、全く考えが及んでいませんでした。
見えていないもの、気がついていなくとも見えていなくてはいけないもの。
沢山考えさせられました。
投稿: shezoo | 2008年11月14日 (金) 01時14分